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原翔太朗

浦和レッズACL制覇の軌跡 -選手だけでなくサポーターや退団した選手の思いを乗せて-


 異例とも言われる年月を跨いで行われたアジアチャンピオンズリーグ(以下 ACL)において、レッドダイアモンズがやってのけた。

 浦和レッズが、先月29日にファーストレグ、今月6日にセカンドレグを戦い2戦合計2-1と中東アル・ヒラル(サウジアラビア)に勝利し、5年ぶり3回目のACLを制覇した。

 5万人を超える浦和レッズサポーターや選手、スタッフ一同は歓喜の渦に巻き込まれ、表彰式後の優勝カップを掲げるシーンでは、見ているこちら側の感情も揺さぶられるほどの感動を呼び起こしてくれた。

 それもそのはず、浦和レッズにとってのACLはどのクラブにおいても特別な舞台であると言える。

 2007年にACLに初出場し、長谷部誠や阿部勇樹、田中マルクス闘莉王ら当時日本代表として活躍していたメンバーが、アジアの舞台でもその実力を遺憾なく発揮しJリーグ勢で初めてACLを制覇。

 その後、4度ACLに挑戦したがグループステージ敗退2回、ベスト16、特に2008年は前年度優勝国として準々決勝から出場したもののベスト4で敗退と、いずれも優勝に届かず悔しい思いをアジアの舞台で繰り返し経験してきた。

 だからこそ、2017年に10年ぶりの優勝を果たした時は、その分の悔しさを晴らすほどの嬉しさがチーム内であったと思うし、試合終了後の阿倍の頭を抱えながら涙が目に溜まっている様子や、槙野智章がコーチ陣に笑顔で思いっきり抱きついた様子は今でも目に浮かんでくる。

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 そして、今回の決勝の相手は、10年前に優勝を決めた相手であるアル・ヒラル。

 ACLを4回制覇とまさにアジアの覇であるアル・ヒラルは、2019年にも決勝で対峙した相手であり、3-0と完敗を喫し悔しい思いを喫したまさに宿敵である。

 当クラブはあれからカタールワールドカップではアルゼンチンに唯一勝利したサウジアラビア代表のメンバーに当チームから11人も有するほど、国内を代表するほどのクラブになり、外国人だけでなく国内選手も屈指の選手をそろえるクラブになった。

 それに併せ、元FC東京の張賢秀や、元ナイジェリア代表のオディオン・イガロ、かつてポルトガルリーグで22得点を記録したムサ・マレガら、豊富な資金力をもとに様々な国からタレントを獲得し、アジア制覇に向けて意気込んでいた。


 戦いとしては、第1戦・2戦ともにアル・ヒラルが終始押していた。

 ボール支配率も、2戦ともアル・ヒラルが70%以上保持していたことからも明らかである通り、浦和は必死に守り守り抜き、相手の一瞬の隙を逃さず入れた虎の子の2点で勝利をもぎ取ったのである。


 ただでさえ出場するのが困難なACLにおいて、複数回優勝するクラブもほんの僅かであり、日本クラブにおいては浦和レッズのみという結果からもACLにおいての強さは語るほどでもないだろう。

 だが、浦和レッズがACL2022に出場し、優勝できたのも今はチームにいない数々の選手の蓄積があっての結果である。


 まず、浦和レッズは天皇杯決勝において、J2の大分トリニータと対戦。

 前半6分に江坂任のゴールで先制したが、後半45分と終了間際に同点ゴールを許してしまう。

 だが、後半アディショナルタイム3分に柴戸海のボレーシュートに、ACL2022決勝第2戦で解説兼スタジオレポーターを務めていた槙野智章がヘディングでコースを変えて決勝点を挙げる。

 スコア2-1と勝利を飾り、天皇杯優勝クラブとしてACL2022出場への最後の椅子をゲットしたという経緯がある。


 その後、リカルド・ロドリゲス監督の元でACLを戦い、ACLならではの長距離の遠征とリーグ戦の兼務で選手たちは疲弊していたが、鈴木彩艶やアレックス・シャルクらリーグ戦ではあまり出番に恵まれない選手たちの活躍、そして現在はベルギーへ海外挑戦をしている松尾佑介らの活躍で勝利を積み重ね、グループリーグ突破を果たす。

 ベスト16では8年連続国内リーグ優勝とマレーシアの絶対王者JDTに対し、現在名古屋グランパスに所属しているキャスパー・ユンカーの2得点や、アレクサンダー・シュルツの先制点とダヴィド・モーベルクの2得点の活躍で圧勝で準々決勝へ進出。

 そして、中2日で迎えた準々決勝は、リカルド監督が昔率いていたパトゥムユナイテッドと対戦とドラマチックな展開。

 しかも、相手監督は手倉森誠と日本にとっても非常に縁のあるマッチメイクが実現。

 体力的にしんどいところがあったにも関わらず、そこは気力で戦い抜き4-0とタイ勢初のベスト8と躍進を遂げていた相手クラブをシャットダウンし、準決勝に進出した。

 

 そして、準決勝の全北現代戦での前日記者会見では関根貴大の「明日の試合は大一番になりますし、1人でも多くのサポーターの方にスタジアムに足を運んでもらう必要があると思っています。この想いをサポーターの方々に届けてほしい」という言葉から、埼玉スタジアムに23000人以上のサポーターが集まり、レッズダイアモンドに熱い声援が送られる。

 試合は延長に突入し2-1と敗戦が目の前に迫る中、延長後半15分にこぼれ球に反応したエースのユンカーが同点ゴールを決め、PK戦では熱いサポーターの声援の中で西川周作が執念で止め、1-3で制し決勝進出を果たした。


 昨年夏の準決勝からチームは大幅に変わり、監督もマチェイ・スコルジャ監督に代わり、ユンカーもACL決勝の前に上記記載の通り、名古屋グランパスに生きせを果たした。

 そして、ACLで多くの得点に絡む活躍を果たした江坂任も、韓国の蔚山現代FCに移籍を果たすなどグループリーグと決勝トーナメントを戦い抜いたメンバーとは違うメンバーで決勝に挑んだ。



 だが、浦和のACLへの特別な思いはチーム全体に浸透しており、チームを去ったメンバーも含めてチーム浦和として宿敵アル・ヒラルと決勝で対峙した。

 第1戦は、アウェイでありながら浦和レッズのサポーターの応援が会場に響き渡り、ボールを持たれても前線のプレスがアル・ヒラルの攻撃を自由にさせず、次第に相手のフラストレーションが溜まっている様子であった。

 0-1とビハインドの中、出戻り組でグループリーグ・決勝トーナメントを戦うメンバーに入っていなかった興梠慎三の執念のゴールでアウェイゴールを記録。



 2017年の優勝メンバーで、長年浦和レッズを支えていたが、2021年の不振から出場機会を減らし、2022年にコンサドーレ札幌へ移籍を発表されたことでもうACLで見る機会はないのかと思いきや、浦和レッズに復帰を果たし決勝戦で価値あるゴールを決めてくれるのだから、やはりサッカーは線で見るべきだと改めて思った瞬間であった。

 その後も、FC琉球から移籍し浦和で潜在能力を発揮し続けている小泉佳穂のプレッシャーや、徳島ヴォルティスから移籍し早速副キャプテンに任命された岩尾憲もイエローカードをもらうものの、中盤でのボール際の強さはアル・ヒラルのタレント勢にも一切負けていなかった。

 なんと言っても怪我でリーグ戦を出れていなかったことでこの試合が復帰戦であった酒井宏樹のACL優勝に賭ける思いはすざましかった。

 怪我明けと思えないほどの対人能力の強さは右サイドに一切隙を与えなかった上、存在感は際立っており、まさに歴代含めて日本最高の右サイドバックプレーヤーとしての圧倒的なプレーを見せてくれた。

 試合終盤には、得点を決めたサーレム・アッ=ドーサリーが一発レッドと相手をイライラさせるほどの守備で次戦の出場停止に追いやり、第2戦に繋ぐことができたのは非常に大きかった。




 そして迎えた第2戦は、なんと埼玉スタジアムに5万人越えのサポーターが駆けつけ、浦和レッズへの応援が会場を熱く包み込んで、ピッチ城に向かう選手たちの背中を後押ししてくれた。

 応援の力は非常に大きく、前年までコロナで声出し応援もできなかったことから、応援があることからか選手たちも球際への執念が非常に強く、ファウルになったものの前半35分の酒井宏樹が競り負けた後の大久保智昭のスライディングには意地でも止めてやるという気迫を感じられた。

 そして、浦和レッズを支えた外国人センターバックの一役であるマリウス・ホイブラーデンのゴールで均衡を破る。

 ホイブラーデンも2023年から浦和レッズに加入した選手であり、準決勝までは浦和レッズと縁がなかった選手であったが、決勝2戦にわたる体を張った守備はチームに安心感をもたらし、もう片方のセンターバックであるアレクサンダー・シュルツとのコンビは双方ともにイキイキとプレーができている印象を感じる。

 その後ろでゴールを守る西川周作も、前半29分に立て続けのピンチを全て凌ぎ切った後、怒るのではなく笑顔で手を叩きチームを鼓舞する姿勢も凄みを感じ、まさに世界やアジアの舞台で何度も戦いを乗り越えた男でしか出せない懐の厚さを感じた。

 チーム全体が押せ押せの状態で守備でプレッシャーをかけ、攻められたとしても最終ラインと西川の安定感からゴールネットを割ることを許さずタイムアップ。

 ピッチ上の11人、ベンチにいる選手や監督、スタッフ、サポーターに併せてこれまでチームに関わった全てのプレーヤーの思いを乗せて、アジア制覇を成し遂げたのであった。


 ACL優勝国として、AC2023Lのプレーオフ枠を獲得というなぜ本戦から出してくれないのかはさておき、そのプレーオフも勝ち抜いてくれるだろうし、期待するのはまだ早い気持ちもわかるが、今年のACLにはクリスティアーノ・ロナウドが出たり、中東勢に噂レベルで可能性は薄いであろうがリオネル・メッシやセルヒオ・ブスケツ、神戸の対談の噂も出ているアンドレス・イニエスタがもしかしたらちゅ当クラブに加入を果たしたら日本クラブの敵として対峙するかもしれないという、数年前までは考えられなかったビックタレントがACLに出るかもしれないという話がでるほど、今年のACLは熱い。

 浦和レッズメンバーには心から祝福の気持ちを届けたいとともに、今後もACLで日本クラブを引っ張る戦いを見せてほしい。



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