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原翔太朗

NBA、NHLを超える観客を集めるMLS~失敗から学んだアメリカならではのユニークな制度~


 今月7日、リオネル・メッシがMLSのインテル・マイアミに移籍し、同月23日には、セルヒオ・ブスケツもシアトル・マイアミに移籍を発表。


 その他にも、元バルセロナのジョルディ・アルバもシアトル・マイアミに移籍合意が間近と言われるなどMLSが移籍市場を沸かせている。



 そして、アメリカではアメリカンフットボール(NFL)、ベースボール(MLB)、バスケットボール(NBA)、アイスホッケー(NHL)の4大スポーツリーグの人気が高いように見えるが、1試合平均観客動員数の項目を見れば、NBA、NHLを抜いて23,110人とアメリカ国内で高い人気を誇っている。


 歴代で言うと、シャーロットFCvsニューイングランド・レボリューションの試合になんと、69,345人のファンが集まるなど、現在MLSがアメリカ国内で非常に熱い。


 今後、2026年のFIFAワールドカップではメキシコ、カナダとの共催での開催が控えており、更なるサッカー熱がアメリカ国内で湧き上がることが予想される。


 今回は、アメリカ国内での人気を上げた理由に該当するMLS特有の仕組みについて深掘りさせていただく。


 まず、MLSは「シングルエンティティ」の仕組みを敷いている。


 この仕組みとは、リーグ自体が1つの会社となり、各部署としてチームが存在する組織のことである。


 そのため、選手たちはクラブではなくリーグから給与を得ており、それによりチームごとの資金力の差をなくすことで、リーグ間の拮抗性を保つことができる。



 そして自国選手の育成も理由の一つである。


 それも以前NASLでは資金をチームに任せたことで、ペレやヨハン・クライフ、フランツ・ベッケンバウアーなどヨーロッパや南米の世界的スター選手の獲得によりチームを強化していったため、自国選手のスター選手が育たず、ファンの興味を引くことができなかったと言う失敗経験がある。


 MLBではベーブ・ルースやアレックス・ロドリゲス、マイク・トラウトなどどの年代においても自国のスター選手は存在し、NBAではマイケル・ジョーダンやコービー・ブライアント、NFLではトム・ブレイディやパトリック・マホームズ、NHLではウェイン・グレツキーなど4大スポーツには必ず自国のスター選手がリーグの人気を支えていた。


 アメリカ国内で既に完成されているプロスポーツリーグに割り込むには、自国のスター選手は必要不可欠であるため、資金に頼れないチームづくりを強いることで自国スター選手を輩出する環境設計の一因として、シングルエンティティという制度を敷いているのである。


 だが、それではつまらないリーグにもなり得るため、「特別指定選手枠」という制度を敷き、リーグからの給与とは別に、各チームで2人(条件次第では最大3人まで)予算を独自に制定することができる制度である。


 この制度により、デイヴィッド・ベッカムを国内に戻すことができ、カカやティエリ・アンリ、ズラタン・イブラヒモヴィッチに久保裕也など各国の代表クラスをアメリカに招くことができ、MLSの人気拡大につながっている。


 また、アマチュアスポーツの人気が高いアメリカにおいて、ドラフト制度を導入することで、有力選手の特定クラブへの集中を防ぐことができ、弱小クラブでも将来有望な選手を獲得することができ、クラブ間の戦力差や人気の格差を生まれないように設計している。



 そして、Jリーグとは違い昇降格がないリーグ制度も、戦力差を拮抗にするための制度として効果を生んでいる。


 Jリーグや欧州リーグでは、昇降格があるため長期的なチーム育成・強化を図ることが困難であるため、1部の上位チームと2部・3部のクラブと比べると戦力差は明らかである。


 以前のNASLの失敗から、クラブ間の戦力差を少しでも少なくするために、2リーグ制の昇降格なしの制度を敷いているのである。


 そして、MLSはJリーグに匹敵するほどの地域密着のクラブ経営によって、アメリカ中の都市に次々とクラブを立ち上げ、結果的に国内で人気を拡大していった。


 例えば、シアトル・サウンダーズはクラブ名をファン投票で決定し地元民からの愛着を高める仕掛けを作り、ジェネラル・マネージャーは4年ごとにファンによる選挙によって決定し、チーム造りにも関わらせることで、存在感・立ち位置を上げていく。


 それにより、昨シーズンは1試合平均観客動員数がなんと33,607人を記録する。




 こんなに面白い仕組みを作り、実際に観客動員にも直結し、且つ地元の有力者であるポール・アレンをオーナーに迎えることで、アレンが共同社長を務めるマイクロソフトやボーイングなど地元企業もスポンサーとして関わりたくなる魅力を作り出した。


 それから、ポートランド・ティンバーズは、「Stumptown(切り株の街)」という愛称で親しまれていることから、大自然や森を彷彿とさせる緑色のイメージカラーに、チーム名も樹木や材木を意味する「Timber」という言語を入れることで、地域に根ざしたチームづくりをしている。


 そして、マスコットがティンバー・ジョーイという男で、着ぐるみを着ないマスコットなのである。


 先代である伝説的なマスコットであるティンバー・ジムの意志を受け継ぎ、ティンバーズがゴールを決めると、自慢のチェンソーで丸太を輪切りにしてスタジアムを盛り上げてくれる、他のサッカークラブにはない発想且つ、地域の歴史やシンボルに沿ったエンターテイメントを演出してくれる。

 地域に根ざしたマーケティングの後は、世界に向けての広報活動として、今年からAppleと契約し、リーグの全試合をApple TV+内のストリーミングサービス「MLS Seasson Pass」でリーグ全試合を放送している。



 MLSは地域に根ざしていることから、小さな国内市場であったが、リオネル・メッシがMLSに来るということで、市場は確実に拡大していくだろうし、今年から全世界へのサブスクリプションを展開したことも、もしかしてリオネル・メッシの獲得に動いた理由なのではと推測ができる。


 なんといっても、リオネル・メッシがPSGに加入することが発表された週にInstagramで560万人のフォロワーを獲得し、メッシがPSGから去ることが明らかになった数週間後には、200万人のフォロワーを失うほどの影響力があるからである。


 そんなMLSが世界的なリーグになることも時間の問題であり、2026年のワールドカップの成績によっては、衰退しているMLBの人気を超えるポテンシャルがあるほど、順調に勢力拡大できているMLS。


 特にApple製品お持ちの方は、1試合だけでもMLSの試合を堪能してみるのはいかがだろうか。



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